変化を受け入れることができますか?経営者の判断に必要な柔軟さとは
かつて会計事務所時代に親しくさせていたいただいた
ある社長さんの顛末をお話したいと思います。
たった一つの経営判断でこうなる・・という実例です。
社長の「判断の重み」を思い知る出来事として
私の記憶に今でも深く刻まれています。
自分でも戒めにしている内容です。
念願の独立
私が担当していたある社長さんは
代理店ビジネスをされていました。
その業界でも誰もが知るような有名な会社で
早々に実績をあげアッという間に
管理職に昇進されていたそうです。
部下も大勢いて、自分の座席から新聞を
読んでるフリをして
開けた穴から様子を見ていた・・
これは本人が笑いながら話してくれた
昔の仕事の様子でした。
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バブル時代はとっくに終わっていましたが
その会社は破竹の勢いでした。
CMも良く出ていましたね。
彼は自信をもって自分の会社を
設立したのでした。
出会いがビジネスを急拡大させた
同業での創業ですから、人脈や販路も
そのまま生かせたに違いありません。
代理店ビジネスはあくまで仲介ですから
もとの会社とのパイプを切る必要は
ないわけです。
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あるとき営業先の上場会社で、若い担当者と
出会いました。
持ち前の営業力を発揮してというよりは
そのビジネスに不慣れだった若者を指導する
ような形で付き合いが始まったそうです。
徐々に取引量は拡大し、毎週のように
新規契約が決まるなど、蜜月の時代が
続きました。
それに伴い売上は急拡大。
仕事は忙しくなりましたが、アルバイトを
雇うこともでき増収増益を達成。
自信を深めて役員報酬を大幅に上げて
いきました。
私が担当になったのはその頃でした。
大得意先に集中投下!順調に業績を拡大
指導していた担当者も実力をあげ
社内でもそれなりの地位に
昇格していたのかもしれません。
彼の提案はことごとく社内の稟議を通り
この社長への仕事の依頼は
切れることなく続きました。
やがて受注の半分どころか
8割近くを占めるに至ります。
1件十数万~数十万の案件を一つずつ
仕上げる一般の案件と
数十万規模の案件が何件も連続して
依頼される上場会社の案件。
経営上、合理的な判断ともいえます。
会社の未来を決める究極の選択
そんなとき、事件が起こりました。
大得意先となっていた
その上場会社で組織変更がありました。
広告業務をその会社1社だけに
外注している状況が問題視されたのです。
最終的に通告されたのは
A)大手の競合他社との競争
B)2~3割もの大幅な値下げ
の2択でした。
社長は悩んだ結果、B案を選択し
利幅を下げてでも受注維持を図ったのです。
利益が大幅に圧縮され、余裕がなくなる・・
と私は指摘しました。
「今のペースなら確かに利益は残るけれど
わずかな減少で会社が傾く可能性がある」
彼の結論は変わりませんでした。
デジタル化でコスト構造が激変
背に腹は代えられずという状況だったのかも
しれません。
実は代理店ビジネスにも技術革新の波が
寄せていました。
手書きの書類とFAXでよかった入稿が
デジタル化されていました。
すべてパソコンでの処理を
余儀なくされるようになったのです。
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社長・従業員は新技術に対応できず
やむなく新たなスタッフを雇用しました。
もともと利幅が限界だったわけですから
赤字に転落するのに時間はかかりません
でした。
数年後、社長はその事業を
たたむことになりました。
夫婦関係にも大きな変化が生じたとは
後に聞いた話ですが。
個人資産もかなり投入していたので
何もかも失ったと感じておられた
かもしれません。
何が必要だったのか
自分の会社なのだから
状況が変われば柔軟に対応すればいい・・
でもこれは、外野にいたからいえること。
当事者には難しい判断だったかもしれません。
「必ずしも論理で人は動かない」
このことは行動心理学が明らかにしています。
彼の判断は冷静な分析だったのか。
新しい競争を避けようとする恐怖が下した
結論だったのか。
私が深く心に刻んだのは次のことです。
「自ら変化し続ける覚悟がなければ
ビジネスを続けることができない」
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令和の時代、環境はさらに変わるでしょう。
あなたのビジネスは硬直化していませんか?
新型コロナウイルスは
その変化の1つに過ぎないのかも。
冷静な判断は
さらに難しくなるかもしれません。
自己の内面との対話を習慣化することは
その助けになるはずです。